積水ハウス決算情報に見る販売価格の内訳
広告宣伝費とプライベートブランド
「広告宣伝費が乗っている商品は買わない!」
「大手は暴利をむさぼっている!」
近年、住宅業界に限らず、様々な場で、このような意見をしばしば耳にするようになりました。
とくに影響を与えているのが、プライベートブランドの躍進でしょう。
- プライベートブランド(Private Brand ,PB)とは
- 小売店独自のブランドによる商品。
イオングループのトップバリュ、
セブン&アイグループのセブンプレミアム、など。
対義語)ナショナルブランド(NB)
インスタントラーメンなどの食品の場合、ナショナルブランドでは、販売価格の3~4割が、広告宣伝費など販管費で占められると言われるが、プライベートブランドではそれらがほとんどかからないため、ナショナルブランドと変わらない材料の商品を、半額程度で提供することができる。
メーカーは、研究開発を行い、広告を打って商品をPRしないと、消費者はもちろん、スーパー・コンビニなど小売店が置いてくれない。
小売店は、メーカーがPRした商品の横に類似のプライベートブランド商品を置けば、確実に売れる。
プライベートブランド商品は、小売店がメーカーに発注するOEMが主流である。
メーカーとしては、自社のナショナルブランドの競合商品ではあるものの、安定供給や在庫リスクが無いことなど、メリットも大きい。
「おいしさと安全を約束してくれる最高のブランドである」、と世界が認めたカップヌードルや出前一丁が母国では不人気、と思うと、さびしい気もします。しかし、同等の商品を安く購入できることは事実で、食品のほかにも洗剤やティッシュペーパーなど、私の身の回りにも多数発見することができます。
では、住宅業界はどうでしょうか。
積水ハウスを例に、検証してみましょう。
「積水ハウス株式会社 第57期 有価証券報告書」には、同社およびグループ会社が2007年に費やした宣伝広告費は、266億7,500万円と記載されています。日清食品の広告宣伝費が、120億円くらいですから、倍以上です。
決算報告 意外に低い粗利率
積水ハウスの決算情報については、有価証券報告書や決算短信などを、同社のWEBサイトで閲覧できます。
http://www.sekisuihouse.co.jp/company/financial/yuho.html
積水ハウス 第57期決算概要 連結ベース(2007年2月~2008年1月)
| 売上高 | 1,597,807 |
|
| 売上原価 | 1,269,243 |
原価率 79.44% |
| 売上総利益(粗利益) | 328,564 |
粗利率 20.56% |
| 販売管理費 | 218,836 |
|
| (内、広告宣伝費) | (266,675) |
広告宣伝費率 1.67% |
| 営業利益 | 109,727 |
営業利益率 6.87% |
| 経常利益 | 114,086 |
|
| 当期純利益 | 60,352 |
| 販売戸数 | 57,162戸 |
|
| 一戸あたり購入価格 | 2,795万円 |
|
| 一戸あたり原価 | 2,220万円 |
原価率 79.44% |
| 一戸あたり粗利益 | 575万円 |
粗利率 20.56% |
| (内、一戸あたり広告宣伝費) | (47万円) |
広告宣伝費率 1.67% |
請負契約を中心とした中小の住宅建築業では、粗利率は35%くらいが一般的です。
一方、営業利益率は、5%を超えることは難しい。なかなか優れた経営力ではないでしょうか。
また、広告宣伝費は、一戸あたり47万円になりますが、購入価格の1.67%にすぎません。
たとえ広告宣伝費がゼロの業者でも、粗利率が35%なら980万円の粗利をとりますから、積水ハウスより400万円以上も利益が多い、ということになります。
少なくとも暴利という感じではないようです。
広告宣伝費削減のシミュレーション
では、ここで広告宣伝費を削減するとどうなるか、試算してみます。
広告を減らせば、経費削減になりますが、同時に集客・売上も減少します。また、売上が減少すれば、資材・建材メーカーとの価格交渉力も落ちますから、原価にも影響が出るでしょう。
これらを仮に、次の設定とします。
- 前提条件
- ・広告宣伝費 ・・・ 50%削減
・一戸あたり販売価格 ・・・ 広告宣伝費の削減分を全額還元(▲23.5万円)
・売上戸数 ・・・ ▲10%
・売上原価率 ・・・ 0.5%上昇
すると、このような試算結果となりました。
広告宣伝費削減 試算結果
| 項目 | 変更前 | 変更後 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 売上戸数 | 57,162戸 |
51,446戸 |
売上戸数▲10% |
| 一戸あたり価格 | 2,795万円 |
2,771万円 |
▲23.5万円 |
| 売上高 | 1,597,807百万 |
1,425,569百万 |
▲10.8% |
| 売上原価率 | 79.44% |
79.94% |
0.5%上昇 |
| 売上原価 | 1,269,243百万 |
1,139,600百万 |
|
| 売上総利益(粗利益) | 328,564百万 |
285,969百万 |
▲13% |
| 粗利率 | 20.56% |
20.06% |
|
| 販売管理費 | 218,836百万 |
205,498百万 |
▲6.1% |
| (内、広告宣伝費) | (26,675百万) |
(13,337百万) |
▲50% (▲13,337百万) |
| 営業利益 | 109,727百万 |
80,471百万 |
▲26.7% ▲29,256百万 |
| 営業利益率 | 6.87% |
5.64% |
広告宣伝費を半分、133億円削減し、消費者に還元。販売価格を一戸あたり23.5万円下げた。
ところが、売上戸数が10%減少し、売上高は10.8%減少。
また、原価率が0.5%上昇し、売上総利益は、13%減少。
結果、営業利益は292億円減少(▲26.7%)、営業利益率は、5.64%に悪化。
これで良しとする株主・経営者はいません。
もし、
減少してしまった営業利益292億円を、
・値上げでカバーするとなると、一戸あたり56.9万円の値上げになります。
・リストラでカバーするなら、1,000人以上が対象になりそうです。
・下請けをたたくとすると、一戸あたり56.9万。職人さん2~3人を一ヶ月ダタ働きさせる金額になります。
あまり穏便ではないですね。
意見
広告宣伝費を消費者が気にしても、ほとんど意味がないと思います。
たとえば近年、住宅業界では、タマホームが「価格破壊」を引っさげ、躍進しました。
そのタマホームは、最もギャラの高い芸能人であるみのもんた氏を起用し(→さらに、木村拓也氏)、TV、新聞、雑誌、WEBから、東京ドームなど野球場、街中の看板、など、ありとあらゆる広告を打っています。さすがに、六本木に看板を出す必要はないんじゃないかと思いますが、人材確保など他の目的もあるのかもしれません。
しかしながら、現在でもローコスト住宅であることに変わりありません。
広告宣伝費は固定費ですから、売上が増えれば、売値に反映させなくても、広告を増やすことは容易です。
むしろ、広告宣伝費と聞くと、脊髄反射のように毛嫌い反応を示す人は、カモにされる危険性があります。
経営の苦しい企業やブラックな業者がしばしば、
「大手は広告宣伝費がかかっているから、買わない方が良い。」というセールストークを使いますね。
また、冒頭のPB(プライベートブランド)について、積水ハウスにはほとんど関係ありません。インスタントラーメンは、メーカーが製造し、小売店が販売しているのに対し、積水ハウスは、自社で製造も販売も行うからです。
住宅業界でPBが登場するのは、フランチャイズ・チェーン(FC)です。フランチャイザー(本部)に利益を収めるのが惜しくなったフランチャイジー(加盟店)が退会し、そっくりな商品・販売手法で商売を開始することがしばしばあります。ただし、うまくいく事はほとんど無いようです。
提案
現実問題として、積水ハウスをはじめ、大手住宅メーカーは高いと思います。
できれば、数百万円ほど価格を下げてほしい。
しかし、ハウスメーカーの価格をヤキモキするより、住宅ローンや生命保険の見直し、年金対策、インフレリスクの軽減、などを行った方が、はるかに高い経済効果を得られます。
original:2008-June.-26; updated:2009-Nov..-18; © 2003-2009 housemaker.jp all rights reserved.